葉酸飲んでたのにダウン症になる?
結論から言います。葉酸を飲んでいてもダウン症になります。なぜなら、葉酸はダウン症を予防するために飲むものではないからです。
この記事では、「葉酸はダウン症予防になる」という誤解がいかにして広まったのか。ネット上に蔓延する間違った医療情報を正します。
「葉酸を飲んでたのにダウン症」と検索してしまう諸悪の根源はこれだ!
葉酸を飲んでたのにダウン症になる?いえ、そもそも葉酸には、ダウン症のリスクを減らすエビデンスがありません。
葉酸は、厚生労働省も通知しているとおり、胎児の神経管閉鎖障害のリスクを減らすことが知られています[1]。
ですが、葉酸にダウン症のリスクを減らす明確な証拠はありません。
それなのに、なぜ「葉酸 飲んでたのにダウン症」などと信じて、検索してしまう人が絶えないのか。次のような間違った情報を伝える記事がネット上にあるからです。
しかし近年では、神経管閉鎖障害とダウン症の発症には関係があるのではないか、とされる研究報告が提出されました。
北海道大学の研究によると、神経管閉鎖障害を持つ赤ちゃんを出産したことのある女性は、そうでない女性と比べ、ダウン症児を出産する確率が約5倍も高くなるとの結果が出たのです。
※誤情報につきリンクは貼りません。
一般の人には、上記の何が間違っているのかわからないかもしれません。ですが、日本一葉酸に詳しい私(めしぞう)なら一瞬で「間違い」だと見抜けます。
葉酸がダウン症に効果があるかのように誤解させる2つの間違い
ネットにはびこる「北海道大学の研究でダウン症がうんぬん~」の記事には、2つの間違いがあるので指摘します。
間違い1:近年、神経管閉鎖障害とダウン症の研究報告が提出された←嘘
間違いの1つめは、「近年では、神経管閉鎖障害とダウン症の発症には関係があるのではないか、とされる研究報告が提出されました」という表現です。
さも、最新の研究で判明したかのような書き方ですが、誇大表現もいいとこです。まず「近年」の定義を確認すると、Google先生は次のように回答しました。
近年とは「最近の数年」とのことです。
では、この「北海道大学の研究」はいつのことなのか。……「2009年」です。2009年6月の「日本補完代替医療学会誌」に掲載された北海道大学の研究を指しているのです[2]。
日進月歩で進む医療の分野において15年前の研究は近年でしょうか?違いますよね。かなり古い研究を持ち出しているのです。
間違い2:北海道大学の研究でダウン症児を出産する確率が約5倍も高くなると判明←嘘
2つめの間違いは、「北海道大学の研究によると、神経管閉鎖障害を持つ赤ちゃんを出産したことのある女性は、そうでない女性と比べ、ダウン症児を出産する確率が約5倍も高くなるとの結果が出た」という表現です。
北海道大学はそんな研究していません。
この研究結果は、イスラエルの「ダネック・ゲルトナー人類遺伝学研究所」の研究結果です[3]。それを北海道大学が引用しているだけです。
しかも、2003年の研究結果です。これのどこが「近年」なのでしょう?
なお、その10年後の2013年の論文では、次のように発表されています。
母親の葉酸補給がダウン症リスクを下げるのなら、1998年から葉酸の強化を義務化しているアメリカで、ダウン症の有病率は下がるはず。しかし、現時点でそのようなことは明らかに起こっていない。
母親の年齢、人種、民族を調整して比較したところ、ダウン症の母親と葉酸との間に関連性がある証拠は見つからなかった[4]。
さらにその10年後の2023年。葉酸がダウン症に効果的という論文は発表されていません。進展なしです。
ダウン症を予防する唯一の方法
残念ながら、現時点においてダウン症を予防する方法は誰にもわかりません。
世界で初めて葉酸摂取の義務化を決めた公的機関「CDC(アメリカ疾病予防管理センター)」は次のように述べているからです[5]。
なぜダウン症が起こるのか、どれだけの異なる要因が関与しているのか、確かなことは誰にもわかりません。
ただし、CDCによると、ダウン症のリスク要因が1つだけわかっています。
それは「母親の年齢」です。妊娠時に35歳以上の女性は、34歳以下の女性に比べて、ダウン症の子を妊娠をする可能性が高くなります。
つまり、34歳以下で出産すれば、ダウン症リスクの低下が期待できます。
ただし、出産するのは若い女性のほうが多いため、ダウン症の赤ちゃんの大多数は34歳以下の母親から生まれます。
まとめ:葉酸飲んでたのにダウン症になるのは、葉酸とダウン症は関係ないから
というわけで、今回は「葉酸飲んでたのにダウン症になる?」と題して、ネット上「葉酸でダウン症予防ができる」かのような間違った情報を訂正してみました。
内容ともう一度まとめておきます。
- 葉酸には、ダウン症のリスクを減らす信頼できるエビデンスがない
- 葉酸とダウン症について歪曲された誤情報が出回っているので注意
- ダウン症リスクを下げる唯一の方法は34歳以下で出産すること
本来、このような情報は産婦人科医が情報発信するべきです。ですが、産婦人科医は、医者の中でも激務です[6]。
なので、医師よりもわかりやすく、具体的なエビデンスも添えて、正しい医療情報を伝えてみました。(そもそも、誤情報を広めているのが医療機関という)
葉酸の知識に関しては、めしぞうが日本一詳しいはずなので「もっと知りたい!」という人は、「めしぞうノート」を読んでみてください。
>> めしぞうノートを見てみる
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厚生労働省「神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について」(閲覧日:2023年8月18日)
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PMID: 12711468(閲覧日:2023年8月18日)
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PMID: 23401135(閲覧日:2023年8月18日)
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CDC「Facts about Down Syndrome」(閲覧日:2023年8月18日)
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日本産婦人科医会「産婦人科勤務医の待遇改善と 産婦人科勤務医の待遇改善と女性医師の就労環境に関するアンケート調査報告」(閲覧日:2023年8月18日)